おかぽん先生の日常と随想

幽玄の複弦

2024年02月27日 14:05

幽玄の複弦

 これ、ギタリストの西垣正信さんとの顔帳でのやりとりで考えた言葉だ。西垣さんは調弦の問題を話していたのだが、俺は複弦の問題を考えていた。俺が最初のリュートを買ったのは30年ほど前だった。Haddock作、6コースルネッサンスリュートで、今は誰かのものになっている。リュートを練習しながら「なぜこの楽器は複弦(同じまたはオクターブ違いの弦が2本並んでおり、それを同時に弾く)なのだろうか」と考えた。特に同音の場合、全くぴったりと合うことはないだろうし、演奏中どんどんずれてゆくだろう。調弦がひどくずれていると気持ちが悪いだけだが、微妙にずれていると2本の弦のずれに応じて1つの音の大きさが大きくなったり小さくなったりして聴こえる。これがうなり(振幅変調)である。うなりがあるとピッチが特定しにくくなる。複弦の楽器をぴったりと調弦することは不可能なので、いろいろなところでずれが生ずるが、これらのずれはうなりとして解消され、全体的に幽玄な響きが醸し出される。昔の撥弦楽器が複弦なのは、これが理由じゃないかなあ。

 なんて言っているのだが、要するに俺の調弦が甘いことを科学的に言い訳しているだけのようにも思える。言い訳は言い訳だが、同時に科学的な根拠があるかも知れない。うなりがあるとピッチが同定しにくくなる、という研究があればよいが、探すのがめんどうくさい。chatGPTに訊いてみるか。AI頼みではあまり幽玄ではないな。

 というわけで、chatGPTに訊いてみた。2つの音源が非常に近いとうなりが生じる。そのとき、ピッチは2つの音源の平均値になる。2つの音源のピッチが離れてゆくと、うなりの周期は短くなり心理的ピッチは揺らぐ。しかし2つのピッチが離れすぎてしまうと2つの音が聴こえる。これはだいたいもとのピッチの2%くらいなようだ。だからリュートを幽玄にならすためには、やはり2本の弦は最大4Hz差くらいにしておいたほうがよさそうだ。独立ピッチか平均ピッチかとうなりの関連、そして臨界帯域との関連については、改めて実験が必要だと思う。純粋な心理物理実験では純音が使われるが楽音には倍音が入る。楽音の差音とピッチ、うなり、幽玄さの関連はいつか解明しておきたいものである。


紀井利臣作14コースバロックリュートと俺