おかぽん先生の日常と随想

齧歯類

2024年02月25日 23:26

狂犬リス

 齧歯類が好きだ。俺の研究内容からして、「え、鳥じゃないの」と言われるかも知れない。もちろん研究者として鳥は好きだ。でも研究者の皮を剥いた俺は、ネズミラヴァーなのだ。これはどうも幼児体験によるのじゃないかな。小学校4年のとき(幼児じゃないか)、実家(栃木県足利市)の裏に東京から越してきた夫婦が、俺が動物好きなのを知って、突然ハムスターをくれた。1960年代では、栃木のハムスターは希少動物だ。誰もハムスターなんて知らない。ご夫婦によると、ハムスターとはリスの仲間で(齧歯類なので正しい)、南米原産だという(デグーならそうだが、ハムスターは中東だ)。ハムスターといっても俺の学友どもには通じないだろうから、俺はリスを飼っていることにした。俺は毎日リス(ハムスターだが)の世話に明け暮れ、嬉しいこと悲しことはみんなリス(ハムスターだが)にお話しした。学校ではうちのリス(ハムスターだが)がどんなに賢いかを聞く耳をもたぬ学友に話続けた。するといつのまにか、俺のあだ名は「狂犬リス」になっていた。二重に間違っている。だいいちリスじゃないし。それに犬じゃないし。学友はおそらく「狂ったようにリス(ハムスター)のことを話し続けるへんな奴」の意味で「狂犬リス」というあだ名を俺につけてくれたのだろう。ありがたや。そういうわけで、俺が齧歯類好きになったのはこのハムスターのおかげである。さらにいえば、俺にハムスターをくれた裏のうちのご夫婦のおかげである。さらにいえば、俺が生物心理学者になったのも一部はこのご夫婦のおかげであろう。

ポメ太郎

 現在家にいる齧歯類はスナネズミのポメ太郎だ。彼は今、推定年齢4歳3か月。だいぶおじいさんになってきた。写真は1年前のもの。スナネズミの1年は長い。ポメ太郎は、息子(小6)のペットだ。コロナ禍に入って数か月の2020年6月、息子が「僕もペットが欲しい」と言い出した。そもそも当時3歳上の姉がジャンガリアンハムスターを飼っていた。コロナ禍の閉塞状況で、息子も小動物を飼いたくなった気持ちはわかる。息子は何を買うかを決める前からペットの名前を決めていた。ポメ太郎だそうだ。俺は妻と小動物図巻を取り出して、どのペットが息子に合うか検討した。結果、スナネズミが良かろうということになった。スナネズミは漫画「動物のお医者さん」で広く知られるようになったとおり、おとなしく、ヒトを咬まず、逃げ足がとろい。これならまだ幼かった息子にも扱えるであろうと思ったのだ。コロナ禍のもと、東京都内のスナネズミはほとんどおらず、俺は久しぶりにこわごわと電車に乗って厚木のペット屋まで出かけた。そこにいたスナネズミは幼いながらポメ太郎な顔をしていたので、家に来てもらうことにした。

 ポメ太郎は俺たちの知っていたスナネズミとはずいぶん異なっていた。動きが俊敏でなかなか触らせてくれない。これでは息子のペットとしては心配だ。なぜこいつはこんなに違うのか。俺はスナネズミについて調べてみた。WikiPediaだけど。すると、スナネズミは原産地の中国やモンゴルのほうから二手に分かれて飼育されてきたようだ。いっぽうは日本に輸入され実験動物としておとなしい形質が選択されてきた系統で、これが「動物のお医者さん」に出てくるぼーっとしたスナネズミである。もういっぽうはヨーロッパに輸入されてペットとなり、色変わりが作出されてきた系統だ。うちに来たスナネズミは、後者のものでポーランドから輸入されたものらしい。しかし俺は動物心理学者だ。スナネズミをなつけることくらいできるはずだ。と意気込んだが、結局ポメ太郎を手乗りにしたのは妻の功績である。彼女は辛抱強く、一歩一歩ポメ太郎に安心感を与えながらソファの上で遊べるようにした。ポメ太郎は毎日1時間、ソファの上で散歩するのが日課になった。彼は伏せた箱を裏返してひまわりを探したり、すべり台をすべったり、トンネルをくぐったりと様々な遊びを身に着けていった。こんなスナネズミは俺にとっても初めてだ。

 ポメ太郎はおじいさんになってきた。平均余命はあまりないのだが、今日もひまわりをもらいにソファに出てくる。動きは遅くなり、坂は上れなくなった。ポメ太郎の残り少ない日々が幸せでありますように。