おかぽん先生の日常と随想

学振焼肉

2024年02月28日 22:57

 学振焼肉。これは極めて限定された世界でのみ通用する用語だ。学振とは、日本学術振興会特別研究員のことで、大学院生または博士号取得者が金銭的な苦労なく3年間研究できるような研究奨励金を支払うものである。この制度は、需要に対して供給が少なく、数倍の競争を勝ち抜いたものが獲得する。焼肉とは、多くの場合牛の肉を焼いて何等かの調味料をつけて食するものである。学振と焼肉はかように乖離したものであるが、学振焼肉とくっつくことで新たな概念を生成する。学振を取得した者が取得できなかったものに焼肉をごちそうすることである。

 人の誤謬はいろいろあるが、経済圏を矮小化して考えがちであることもそのひとつだ。なので、誰かが学振を獲得したことが、他の誰かの学振の機会を奪うことと無意識に推論することになる。日本全体を見渡してみればゼロサムゲームになるかも知れないが、研究室内のような小さな経済圏では、あいつが学振とったから俺が落ちた、ということは合理的な考えではない。逆に、俺が学振とったからあいつが落ちた、というのも合理的な考えではない。それでも人はそう悩むのだ。学振に落ちた者にとって、これは解決のむつかしい問題であるが、受かった者にとって解決方法がある。それは落ちたものに焼肉をごちそうすることである。

 このことは、厳しい競争社会を笑ってすますためのまあちょっとした冗談であるが、冗談を実践する学生たちもそこそこ現れ、SNSで拡散し、学振焼肉は今やwikipediaに載ろうという勢いである(たぶん載らない)。俺も学生が学振をとるたびに耳元で「学振焼肉、学振焼肉」とささやいていたものである。

 ところが昨晩ついに、噂に聞く学振焼肉が実現した。来年度からの学振に応募した学生3名がめでたく採用されたのである。俺たちは総勢12名で十条銀座商店街の焼肉屋に行き、飲み放題つきで焼肉をたらふく堪能した。今期の学振採択者が多めに、そうでないものがそれなりに出資したわけだが、それはさておき、めでたいことがあって焼肉を食するのはたいへん良いことであると俺は思った。それで幸せになったので、このような駄文を記しました。みなさん、おいしかったね、ごちそうさま。